事例としてナッツ入の焼き菓子を取り上げてみたいと思います。
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― 過酸化物価(POV)から見る「脂質劣化」に潜むリスク ―
一見すると何の変化もなさそうに見えるクッキーでも、内部では脂質の「酸化」が静かに進行しているかもしれません。本記事では、ピスタチオクッキーとココアクッキーを例に、過酸化物価(POV)という指標を用いて、見た目ではわからない品質の変化をどのように評価できるのかを紹介します。
【飽和脂肪酸は体に悪い?】
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のどちらに、より良いイメージをお持ちでしょうか。
一般に、飽和脂肪酸は肉の脂身や乳製品に多く含まれ、過剰摂取すると「悪玉コレステロールを増やしやすい」と言われています。
一方、不飽和脂肪酸は魚や植物油に多く、健康に良い影響を与えるとされ、しかも体内で作れないため好まれる傾向があります。
この前置きがあると、飽和脂肪酸の多いココアクッキーと、不飽和脂肪酸の多いピスタチオクッキーであれば、「健康に良さそう」というイメージから、ついピスタチオクッキーを選んでしまうかもしれません。
しかし、そのピスタチオクッキーの酸化状態はどうでしょうか。
食品の見た目や香りだけでは、内部で進行する脂質の酸化や品質劣化の度合いを正確に判断することは困難です。
そこで「過酸化物価(POV)」という指標を用いて科学的に評価します。
【過酸化物価とは】
過酸化物価とは、食品の中で「どれくらい酸化が進んでいるか」を調べるための目安となる指標です。
脂質が酸化すると「過酸化物」が生成され、その量を測定したものが過酸化物価です。
過酸化物価の上昇は脂質の酸化劣化を示し、風味の劣化や健康に悪影響を与える可能性があります。
実際に、20日室温保存と55日室温保存のココアクッキーとピスタチオクッキーの過酸化物価を測定したところ、2種類のクッキーは見た目にほとんど変化がない一方で、
ココアクッキーでは過酸化物価の増加が認められないのに対し、ピスタチオクッキーは保存期間中に過酸化物価が上昇しました。
〈過酸化物価(POV)のポイント〉
・脂質の「酸化の進み具合」を数量で評価する指標
・数値が高いほど、酸化による風味劣化や安全性への影響が懸念される
・外観や香りでは気づきにくい変化を捉えるのに有効
【不飽和脂肪酸は酸化しやすい】
この差は、主に使用されている脂質の組成に起因します。
ココアクッキーの主な油脂成分であるココアバターは「飽和脂肪酸」が多く、酸化に強い特性があります。
飽和脂肪酸は分子構造が安定しているため、酸化による劣化が起こりにくいのです。
一方、ピスタチオは良質な「不飽和脂肪酸」を多く含み、とくにリノール酸やオメガ3脂肪酸など、肌や健康に良い脂質が豊富です。
しかし、これらは「酸化しやすい」という側面も持っており、経時的に過酸化物価が上がりやすい傾向があります。
【「健康そう」=「安全」ではない】
今回のココアクッキーとピスタチオクッキーの例に見られるように、「健康そう」に見える食材が、必ずしも保存中の安全性まで保証しているとは限りません。
過酸化物価という指標を用いることで、見た目ではわからない「酸化による劣化」を定量的に把握することができます。
食品成分分析は、商品の保存性と安全性を客観的に評価し、消費者に届ける商品の品質を科学的に裏付ける重要な役割を果たしています。
※本記事の内容は、実際の脂質分析データと食品分析の知見をもとに構成されています。
製品ごとの配合・製造条件により、最適な評価設計は異なります。
【油脂酸化分析・賞味期限検査のご相談】
クッキー・焼き菓子など、油脂を多く含む製品の
・過酸化物価(POV)測定
・酸価測定
・賞味期限設定試験
については、ISO/IEC 17025:2017 認定試験所である株式会社AHCまでお気軽にご相談ください。
▼株式会社AHC 公式サイト
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参考
農林水産省:食品の油脂の酸化について
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