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フラットサワー 検査|恒温試験55℃と高温細菌数の実務

📋 こんなご相談をよくいただきます

  • 缶が膨らんでいないのに、開けたら酸っぱかった。
  • 恒温試験は合格したのに、市場でクレームが出た。
  • 一般生菌数は陰性なのに、pHだけ下がっている。
  • 夏場の倉庫保管品だけ、同じ症状が出る。
  • 原料のどこから入ったのか特定したい。

フラットサワー検査は、容器詰食品の酸敗変敗を捉えるための試験です。通常の変敗と違い、この現象では容器が膨らみません。そのため、外観の確認だけでは見逃します。しかも原因菌は、一般的な培養条件では発育しません。つまり、標準的な検査を一式そろえても検出できない構造になっています。本記事では、その理由と対処法を解説します。

フラットサワーとは何か

フラットサワーは、缶詰・びん詰・容器包装詰食品で起こる変敗の一種です。名前は現象をそのまま表しています。菌が増殖してもガスを産生しないため、缶の蓋と底は平ら(フラット)のままです。一方で酸を産生するので、内容物は酸っぱく(サワー)変化します。

ここが厄介な点です。膨張缶であれば、出荷前の目視で弾けます。しかしフラットサワーは、開けるまで分かりません。したがって、消費者の手元で初めて発覚することが少なくありません。

⚠️ 「酸っぱいだけなら食べられる」は誤りです

フラットサワー原因菌そのものは食中毒菌ではありません。しかし、酸敗が起きているということは、殺菌工程か密封に問題があった可能性を示します。他の微生物が生残している恐れも否定できません。したがって、異常を感じた製品は喫食しないよう案内してください。

原因菌と増殖温度

原因となるのは、高温を好む有芽胞菌です。代表的な菌種は次のとおりです。

菌種 特徴
Bacillus coagulans 最も代表的。糖を分解して乳酸を産生する
Geobacillus stearothermophilus 耐熱性が高い。旧名はBacillus stearothermophilus
Desulfotomaculum nigrificans 硫化物を生じ、内容物が黒変することがある

いずれも芽胞を形成します。だからこそ、加熱殺菌を生き延びます。芽胞は熱・乾燥・薬剤に強い耐久型の細胞なので、通常の殺菌条件では死滅しきりません。芽胞そのものの性質については好気性芽胞菌数とはで解説しています。

なお、Bacillus coagulans には別の顔もあります。この菌は有胞子性乳酸菌として、プロバイオティクス素材に利用されています。つまり、製品によっては有用菌であり、容器詰食品では変敗菌になるわけです。

なぜ通常の検査では見つからないのか

ここが本記事の核心です。理由は温度にあります。

一般生菌数の測定は、35℃前後で培養します。この条件で発育するのは中温性の細菌です。ところが高温細菌は、常温付近では発育できません。したがって、一般生菌数を測っても陰性になります。菌がいないのではなく、その温度では育たないだけです。

恒温試験にも同じ問題があります。従来の恒温試験は35℃前後で保温し、容器の膨張を見る設計です。しかしフラットサワーはガスを出しません。そのうえ原因菌は35℃では増えません。つまり、温度と判定基準の両方が噛み合っていないのです。

検査 条件 フラットサワーを検出できるか
一般生菌数 35℃前後 ❌ 高温細菌は発育しない
恒温試験(膨張確認のみ) 35℃前後 ❌ ガスが出ないため判定できない
好気性芽胞菌数 中温域 ⚠️ 中温性の芽胞菌が主対象
高温細菌数 55℃・48時間 ✅ この条件が必要

したがって、検出には55℃という温度帯を意図的に加える必要があります。一般生菌数の測り方については一般生菌数の検査ガイドをご覧ください。

恒温試験に何を足すか

既存の恒温試験を捨てる必要はありません。追加するだけで対応できます。具体的には、保温温度をもう一段設け、開封後の判定項目を増やします。

STEP 1
55℃で保温する
STEP 2
外観と質量を確認する
STEP 3
開封してpHを測る
STEP 4
官能と塗抹鏡検
STEP 5
55℃培養で菌数を測る

判定の要はpHです

外観に変化がない以上、数値で捉えるほかありません。そこで、保温前後のpHを比較します。未保温の対照品と並べて測ることが重要です。製品ごとに元のpHが違うので、絶対値ではなく低下幅で判断します。

官能検査も併用してください。酸臭や酸味は、pHの変化より早く気づけることがあります。ただし主観が入るので、記録は必ず数値と組にします。

菌数測定と同定

保温品から菌を回収し、55℃で48時間の好気培養を行います。この条件でコロニーが得られれば、高温細菌の存在が確認できます。さらに菌種を特定すれば、汚染源の推定につながります。

たとえばGeobacillus stearothermophilusが優勢なら、原料由来か殺菌不足を疑います。Bacillus coagulansが中心なら、酸性寄りの製品での増殖を検討します。このように、菌種は対策の方向を決める材料になります。

発生を防ぐ管理ポイント

殺菌条件だけでは防ぎきれません。芽胞は耐熱性が高いので、殺菌の強化には限界があります。そのため、複数の対策を組み合わせます。

対策 狙い
原料の芽胞数を管理する 砂糖・でん粉・香辛料・脱脂粉乳などが持ち込み源になりやすい
殺菌後に速やかに冷却する 高温域に留まる時間を短くし、生残芽胞の発芽を防ぐ
保管・輸送の温度を下げる 夏場の倉庫やコンテナは高温細菌の増殖域に入りやすい
加温販売品は別扱いにする ホットベンダー等は高温を維持するため、検査設計を変える
殺菌条件を再検証する F値の設定が妥当か、製品ごとに確認する

とくに加温販売は見落とされがちです。常温流通なら問題にならない製品でも、保温されると条件が変わります。殺菌条件の設計についてはレトルト殺菌条件とF値で詳しく扱っています。

混同しやすい別の変敗

耐熱性好酸性菌による変敗は、フラットサワーとは区別されます。こちらはAlicyclobacillus属が原因で、主に果実飲料で問題になります。検査法も日本果汁協会の統一検査法によるもので、培地も培養条件も異なります。したがって、対象製品が果汁飲料なら別の設計が必要です。

フラットサワー検査の依頼と実務

依頼の前に整理しておくと、設計が早く決まります。

確認事項 なぜ必要か
製品のpH帯 想定される原因菌が変わるため
殺菌条件 生残しうる芽胞の見当をつけるため
流通・保管の温度 保温温度の設定を決めるため
異常品と正常品の両方 pHの比較には対照が要るため
原料の構成 持ち込み源を絞り込むため

AHCの対応範囲

項目 対応
恒温試験(35℃・55℃) ✅ 承ります
55℃培養による高温細菌数 ✅ 承ります
pH測定・官能・塗抹鏡検 ✅ 承ります
一般生菌数・大腸菌群・黄色ブドウ球菌 ✅ ISO/IEC 17025認定範囲
耐熱性好酸性菌(果実飲料) ⚠️ 別設計となるため要相談

当社はISO/IEC 17025認定ラボ(PJLA L26-134)です。ただし、認定は一般生菌数・大腸菌群・黄色ブドウ球菌の3項目で取得しています。したがって、高温細菌数や恒温試験は認定範囲外の試験として承ります。この区別は試験結果証明書にも明記します。費用は項目数と検体数により変わるため、個別にお見積りいたします。

すでに恒温試験をご依頼中であれば、55℃の条件を追加するだけで対応できます。缶詰の手順は缶詰の恒温試験方法、レトルト食品はレトルト食品の検査をご覧ください。

🏢 株式会社AHCについて

1977年創業の食品微生物検査ラボとして、微生物検査と成分分析を全国対応で承っています。群馬県前橋市に試験室を構えています。関連記事:レトルト食品の検査依頼 / 缶詰の恒温試験方法

まとめ

フラットサワーは、容器が膨らまないまま内容物だけが酸敗する変敗です。だからこそ、外観検査では捉えられません。

さらに原因菌は高温を好むため、35℃の培養では発育しません。つまり、一般生菌数と従来の恒温試験を組み合わせても検出できない構造にあります。必要なのは、55℃という温度帯とpHによる判定です。

対策は殺菌強化だけでは足りません。原料の芽胞数、冷却の速さ、保管温度を合わせて見直してください。とくに夏場の高温保管と加温販売は、条件が大きく変わります。

当社では恒温試験に55℃の条件と高温細菌数を追加して承っています。ご相談はお問い合わせフォームからお気軽にお寄せください。お電話(027-253-1515)でも承ります。

外部参考資料

フラットサワー検査は、缶詰やレトルト食品が膨張しないまま酸敗する変敗を捉える試験です。原因菌は55℃で培養しないと発育せず、35℃の恒温試験と一般生菌数だけでは検出できません。判定手順と恒温試験への追加項目を専門機関が解説します

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