📋 こんなご相談をよくいただきます
- 製品から毛が出たとクレームを受けた。どの工程で入ったのか知りたい。
- 人の毛なのか、動物の毛なのかを確かめたい。
- 加熱工程の前に入ったのか、後に入ったのかを切り分けたい。
- お客様への回答に、検査の裏づけが必要になった。
毛髪の混入は、異物クレームでもよくある類型です。相談を受けたとき、最初にお伝えしていることがあります。
調べるのは「誰の毛か」ではありません。「どの工程で入ったか」です。
個人を特定する技術はあります。しかし食品工場の異物対応では、まず必要になりません。社員を疑うことが目的ではないためです。知りたいのは、どこで入ったのかです。そして、どうすれば次を防げるのかです。
この記事では、毛髪から何が分かるのかを段階ごとに整理します。異物全般の考え方は異物検査とはに、虫の場合は食品への虫の混入にまとめています。
3つの段階で絞り込む
毛髪の調査は、段階を追って範囲を狭めます。どこまで進めるかは、現物の状態と目的で決まります。
| 段階 | 調べること | 必要なもの |
| 1. 種別 | 人毛か、獣毛か、それ以外か | 毛の一部があれば可 |
| 2. 動物の推定 | 獣毛の場合、毛髄などの性状から動物を推定する | 特徴が観察できる状態の毛 |
| 3. 加熱の有無 | カタラーゼ試験で、加熱工程を通ったかを見る | 毛根が必要 |
3段階目には毛根が要ります。ここが実務上いちばん大きな分かれ道です。
人毛か、獣毛か、それ以外か
顕微鏡で観察すると、毛の表面の紋理や内部構造に違いが見られます。これによって、人の毛か動物の毛かを判定します。
そもそも毛ではない場合もあります。人工の有機物や無機物の繊維、食材由来の植物性の繊維などです。見た目が毛に似ていても、材質がまったく違います。
| 判定 | 主に疑う混入経路 |
| 人毛 | 作業者の毛髪。防護具の着用状況、更衣手順、入室時の除去工程を見直す |
| 獣毛 | 原料由来、資材由来、あるいは外部からの持ち込み。動物が推定できれば経路が絞れる |
| 人工の繊維 | 作業着、清掃用具、包装資材、ろ材など。同種の資材と比較すると絞り込める |
| 食材由来の繊維 | 原料そのものの一部。異物ではなく製品の構成成分であることもある |
食材由来と分かれば、クレームの位置づけ自体が変わります。異物混入ではなく、原料の性状の説明になるためです。
獣毛なら動物を推定できることがある
獣毛と判定された場合、毛髄の形やその他の性状に特徴があれば、どの動物の毛かを推定できます。原料由来か、外部からの持ち込みかで対応が変わります。
毛根がある場合は、遺伝子法による動物種の絞り込みも選択肢になります。
カタラーゼ試験で加熱の有無を見る
工程の切り分けに直接つながるのが、この試験です。
カタラーゼは生体内にある酵素で、過酸化水素と反応して酸素の気泡を出します。加熱されると失活し、反応しなくなります。この性質を使います。
| 結果 | 推定されること | 見直す範囲 |
| 陽性(発泡あり) | 加熱工程の後に混入した | 冷却、充填、包装などの後工程 |
| 陰性(発泡なし) | 加熱工程の前に混入した可能性 | 原料の受入、前処理などの前工程 |
工程のどちらを見直すかが決まります。これが分かるだけで、調査の範囲が半分になります。
毛根がないと実施できない
カタラーゼが存在するのは毛根の部分です。毛幹だけでは反応しません。
つまり、切れた毛や毛先の断片では、この試験ができません。抜けた毛で毛根が残っている場合に限られます。現物をどう扱うかが結果を左右するのは、このためです。
陰性でも加熱とは限らない
判定には注意が要ります。加熱以外の要因でも、カタラーゼは失活するためです。
- 保管の状況や経過日数によって活性が落ちる
- 薬品の影響を受けることがある
- 酵母やカビ、体液にもカタラーゼが含まれるため、毛以外のものが反応することがある
そのため「陰性だったから加熱工程の前に入った」と断定はできません。製造記録や現物の状態と併せて判断します。試験そのものは過酸化水素水を滴下するだけです。ただし結果を読むには経験が要ります。
個人の特定について
技術的には、遺伝子を用いて誰の毛かを判定することは可能です。ただし食品工場の異物対応で、これを行う場面はほとんどありません。
理由は3つあります。
| 目的に合わない | 異物クレームは、誰かを責めるための調査ではありません。再発を防ぐための調査です |
| 比較対象が要る | 候補者から生体試料を採取しなければ照合できません。社内でそれを行う負担は小さくありません |
| 専門機関の領域 | 法的な鑑定や親子鑑別には専門の機関があります。費用面でも、そちらが適しています |
工程の改善に必要なのは、人毛か獣毛か、加熱の前か後か、という情報です。そこまで分かれば、次の手は打てます。
現物の扱い方
調べられる範囲は、現物の状態で決まります。特に毛根の有無が分かれ道です。
| してほしいこと | 理由 |
| 毛は全長のまま送る | 毛根の有無で実施できる試験が変わる。切らずにそのまま保管する |
| 洗わない・拭かない | 付着物も情報になる。洗浄すると毛根の状態も変わる |
| 早めに送る | カタラーゼ活性は日数の経過で落ちる。時間が経つほど判定が難しくなる |
| 製品ごと送る | 毛がどのような状態で入っていたかが分かる。包装の内側か外側かも重要な情報になる |
| 比較用の資材も添える | 作業着や清掃用具の繊維と照合できる。人工繊維だった場合に絞り込みが進む |
現物を素手で扱わないでください。作業者の毛髪や皮脂が新たに付着すると、判断が混乱します。
依頼のポイントと実務
| お伝えいただきたいこと | 理由 |
| 加熱工程の有無と条件 | カタラーゼ試験の結果を、どの工程と結びつけるかが決まる |
| 発見された場所 | 製品の内部か、包装の内側か外側か。混入の時期が絞れる |
| 原料に動物性のものがあるか | 獣毛だった場合、原料由来かどうかの判断材料になる |
| 製造日と発見日 | 経過日数はカタラーゼ活性に影響する |
| 回答の期限 | どこまで調べるかの判断に関わる。遺伝子法は日数がかかる |
AHCの対応範囲
| 項目 | 対応 |
| 人毛・獣毛・それ以外の判定 | ✅ 承ります |
| 獣毛の動物推定 | ✅ 毛髄などの性状に特徴が認められた場合、推定します |
| カタラーゼ試験 | ✅ 承ります。毛根がある場合に限ります |
| 遺伝子法による動物種の絞り込み | ✅ 毛根がある場合に可能です |
| 個人の特定・法的な鑑定 | 承っておりません。専門の機関をご検討ください |
| 費用 | 項目数と検体数により変わるため、個別にお見積りします |
当社はISO/IEC 17025認定ラボ(PJLA L26-134)です。
👥 こんな方からのご相談を承ります
- 毛のクレームを受け、混入した工程を絞り込みたい方
- 人の毛か動物の毛かを確かめたい方
- 加熱の前後どちらで入ったかを知りたい方
- お客様への回答に、検査の裏づけが必要な方
5ステップで進む検査の流れ
まとめ
毛髪の異物調査で押さえる点は2つです。人毛か獣毛か、そして加熱の前後どちらで入ったかです。この2つが分かれば、見直すべき工程が決まります。
カタラーゼ試験には毛根が必要です。切らず、洗わず、製品ごと早めにお送りください。ただし陰性が必ず加熱を意味するとは限りません。製造記録と併せて判断します。
誰の毛かを突き止める必要は、通常ありません。異物クレームは、責任を問うためではなく、次を防ぐための調査です。
微小な異物は微小異物検査をご覧ください。カビの場合は食品のカビ混入にまとめています。
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外部参考資料
